『日本美術全集』関係者インタビュー 第二回 髙橋建編集長(前編)

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左:高橋編集長 右:Tak

2013年8月28日に刊行された『日本美術全集』最新刊「東大寺・正倉院と興福寺(奈良時代2)」の編集を担当された小学館の髙橋建編集長にお話を伺って来ました。

Tak:「東大寺・正倉院と興福寺」の巻を担当するにあたり、心がけた点を聞かせて下さい。

髙橋:カメラマンも撮影場所も違う一枚一枚の写真を、一冊の書籍にした際に統一感が出るよう編集するのに最も神経を使いました。

統一感というのは、言い換えれば「時代感」とも言えます。ページをめくるたびに、今からおよそ1300年前の天平時代の時代感覚を味わっていただければと思いながら編集しました。

それにより、単に写真が並んでいるカタログではなく、あくまでも書物であることがはっきりと分かっていただけるのではないかと自負しています。

Tak:カタログ的にならぬように編集するために、具体的にどのような点に気を遣ったのでしょうか。

髙橋:仏像のような立体物は、色味の統一が絵画以上に大変です。さり気なく、当たり前のように(目の前に仏像があるかのように)見ていただきたいとの願いとともに、何度見ても飽きないような作りになるよう心がけました。

具体的には、雑誌で使う写真は、インパクトを重視します。パッと見が大事です。ただしそれは一過性のインパクトであり、あまり記憶に留まりません。

雑誌ではなく書籍である『日本美術全集』は、一過性の見た目ではなく、ジワジワ来るような写真を選びました。

Tak「ジワジワ」って良いですね。

髙橋:ジワジワ来る写真とは、何年か後に見ても「いいな~」と思える写真でもあります。毎日見ても飽きませんし、思いついた時に取り出して見ても新鮮さはそのまま伝わって来ます。

「古さを感じさせない写真」を撮る腕の立つ写真家と同じような心構えで、写真を選びましたので、どっしりとした記憶に残る一冊となっています。

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正倉院宝物のページ

Tak:今回、仏像以外に正倉院宝物にページ数を割いていますね。これはこれで違ったご苦労があったのではないかと。

髙橋:はい。現在整理済みのものだけでも約9000点という膨大な数の正倉院宝物をどのように紹介するか、正直、頭を悩ませました。

これも先ほどの仏像と同じように、カタログ的なものになりがちですので、そこだけは留意し、なるべく天平人の生活感覚が伝わるような並びにしてあります。 

Tak:天平人の生活感覚と言ってもいまひとつピンと来ませんが…

髙橋:具体的には、「用途」によって分類することで、215ページの写真にあるような当時の生活空間が体感出来るように編集しました。

既存の書物によくあるような製作技法やジャンル(絵画、工芸など)によってではなく、本巻では人と「もの」との関わりに注目して分類し、並べてあるのです。すなわち、礼拝や供養・荘厳に用いたもの、楽舞や弦楽に関わるもの、室内で身辺に置いて用いたもの、容器として用いたもの、そして装飾の粋をこらしたものといった具合です。

たとえば刀子は、どのように用いるかによって、本来の刃物としてだけではなく、文房具であったり、アクセサリーであったりするわけです。

これまでと紹介の仕方が違いますので、同じ宝物でも新鮮な気持ちで見られます。絵画展でも展示方法や並べ方で見える感覚が違いますでしょう。

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215ページ 

Tak:展覧会を鑑賞する気持ちでというのはとても新鮮ですね。

髙橋:天平美術に関しては浅井和春(青山学院大学教授)先生が、正倉院宝物に関しては杉本一樹(宮内庁正倉院事務所長)先生が、まさにキュレーター感覚で作品選びと構成を考えて下さいました。さながらページ上で「天平美術展」や「正倉院宝物展」を展開しているかのようです。

後編へ続きます。)