ブログ開設から10年、訪れた展覧会の数は3000以上、カリスマ美術ブロガーTakさんインタビュー(3)

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前回に引き続き、美術ブログ「青い日記帳」の主催者Takさんに『日本美術全集』編集部がお話を伺ってまいりました。

――ブログが始まった頃の記事を拝見していると、現在に比べて西洋美術の記事が多い気がしました。その後、日本美術の記事が増えたのには理由があるのですか?

Tak:まずは物理的な要因です。展覧会の割合も西洋美術より日本美術の割合が増えてきていますし、日本美術をみせる美術館も充実してきています。それに合わせて、自分の興味関心も移ってきていると思います。

最初は誰もが好きな印象派だとか、見てわかりやすいロートレックから入って、それを突き詰めていってセザンヌにぶつかりました。セザンヌが大好きになってフランスまで展覧会を見に行ったりした時期もあったのですけれども、そこで止まらずに今度は現代アートに関心が移りました。1995年、ちょうど木場に現代美術館ができたころです。

ただ、現代美術ってわかりやすいかというとそうではないので、見ていてスッキリできなかったり納得できない部分があったんです。その反動として好きになったのがフェルメールです。フェルメールは誰が見ても美しい作品だし、宗教画じゃないので言葉にもしやすい。かといってまったく物語がないわけでもなくて、吹き出しをつけて語れそうな感じがします。

フェルメールにハマって西洋美術はだいたい見た感じになってきた頃に、日本美術にも興味がわいてきました。2000年頃の若冲のブームの前ぐらいですかね。やっぱり最初は洋物にカブレるじゃないですか、若者が洋楽をカッコいいと思うのと一緒です。だんだん年をとって、演歌が心に響いてきたということでしょうか。

――その頃に興味を持った具体的な作品名などは思い浮かびますか?

Tak:琳派ですかね。見ていて感覚的にすっと入ってくるんです。垣根がなくて、絵のなかにすっと入っていけるし、絵もこっちに入ってくるような気がしました。

――絵がこちらに入ってくる、というのは?

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「プライスコレクション「若冲と江戸絵画」」(東京国立博物館、2006年)図録

Tak:説明とかまったくなしに、すっと理解できるという感覚ですね。原風景とまでは言わないのですけれども、紅葉や燕子花とか、日本人だったら知っている風景が描かれていますよね。曼荼羅などの仏教絵画は宗教画なので知識がないと難しいこともありますし、保存状態の関係で、ものによってはほとんど絵が見えなくなっています。琳派ぐらいになると美しさも残っているし、難しいことは知らずに見ていけるので、心が通じあう感覚がありますね。日本美術って、いい意味で見ていて楽だと思いました。

――2006年に東京国立博物館で開催された「プライスコレクション『若冲と江戸絵画』」展など、若冲に関する記事もたくさんお書きになっていますね。

Tak:基本的にミーハーなんです。流行っているものがあると自分も見たい知りたい、同じ感動を味わってみたいと思います。やっぱり、プライス展や2007年に京都の承天閣美術館でやった展覧会で若冲の作品を見て、それまで知っていた日本美術と全然違う感覚を覚えましたね。特に墨で描いた絵なんかは面白かったですね。とても自由な感じがしました。

日本って江戸時代を境に西洋化しているじゃないですか。きっと、その流れにかなり疲れてきちゃっているのでしょう。だから江戸の生活を「あの時代はよかったのだろうな~」と思う気持ちが絶対にあって、それが江戸時代の作品が尊ばれる理由でもあると思います。

――たしかに江戸の美術に関する見直しもあって、『日本美術全集』では20巻中4冊江戸の美術を扱っています。

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作り付けの本棚に並ぶチラシを入れたファイル

ところで、展覧会や美術館関係の情報はどんな方法で集めていらっしゃいますか。

Tak:開催中の展覧会一覧が載っている朝日新聞の水曜日の夕刊ですね。ウェブが成熟していないときから活用しています。ただ、面白いことに、展覧会に行くことが情報を集めることにもなっているんです。次回展のチラシが置いてあったり、ほかの美術館さんのチラシが置いてあったりするので、あれも見たいこれも見たいと、どんどん広がっていくんですよ。展覧会のチラシが大好きなので。

――チラシもとっておいてあるのですか。

Tak:全部とっておいています。

――全部ですか!どのように整理していらっしゃるのですか。

Tak:透明なポケットが20ついたA4サイズのファイルを決めて、それに入れています。1ポケット目の表にチラシを入れて、裏面にチケットの半券だとか、そのときに買ったポストカードを入れます。ポストカードの入っている紙袋なども記念になるので全部入れますね。

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ファイルの活用例1(右に出品目録、左にポストカードやその袋などが整理される)

――え!?そこまで。

Tak:最近はポストカードの袋もデザインされていることがあります。海外に行ったときは、そのときに乗った地下鉄のチケットだとか、そういうのもとにかく全部放り込んでおきます。2ポケット目は展覧会の出品目録を入れるようにしています。必ず一つの展覧会に2ポケット使うことになりますね。だから、20ポケットのファイルでも、10回展覧会に行ったら終わっちゃいます。

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ファイルの活用例2(右に出品目録、左にチラシや半券などが整理される)

――そうなると1ヶ月に数冊使うことになりますね。

Tak:増殖し続けています。置き場がなくて大変なことになってしまい、レンタルスペースを借りて、そこに移動させることになってしまいました(笑)

――私だったら途中で整理が追い付かなくなって、挫折してしまう気がします。

Tak:説明すると立派そうに聞こえちゃうんですけど、やっぱり展覧会から帰ってきてすぐにまとめることって、なかなかできないです。まずは一つの展覧会ごとに1つのクリアファイルに全部突っ込んで置いて、それが10個くらいたまったら、やっとポケット式のファイルに移します。

――デジタルデータ化はしていないのですね。

Tak:していません。本当はスキャニングしたいところですが、レンタルスペースに追いやられることになってしまったので、一応、行った展覧会名と会期と美術館名だけは、時間があるときにファイルの1からリストにしています。

――ちなみにファイル1はいつ頃のものなのですか?

Tak:学生時代です。

――え!?初めて行った西洋美術館のもあるんですか?

Tak:残念ながらないんですよ。たぶん、Bunkamura ザ・ミュージアムさんがオープンしてから2回目か3回目ぐらいのときに開催した、印象派の展覧会のものが最初のものです。

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美術関係書籍で埋め尽くされた作り付けの本棚

――図録も毎回、買っていらっしゃるのですか?

Tak:図録は買う時期とそうでない時期があって、最近また買うようになりました。これまた整理が大変で、何年か前に家を建てた際に自分の部屋は壁一面ぶち抜きで全部本棚にしたんですけど、これで足りるだろうと思ったら大間違いで、いまは納戸に置いたりしていますね。

――奥さまに迷惑がられたり?

Tak:そうですね。でも、珍しくかみさんが『日本美術全集』に関しては、「こんなに綺麗な本があるのだから、見合った本棚を買わなくちゃ」と言い出して、全20巻が揃う幅と高さのものを選んで、オーダーしたんです。全集専用ラックですね。1階のリビングのすみっこにあります。一階には基本的に本棚は置かないはずだったのですけれど(笑)

――でも、本棚を増やすにも限界がありますよね。

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『日本美術全集』がぴったり収納できる本棚

Tak:そうなんです。3.11のときに、遂に積み上げていた本が倒れました。そのことをきっかけに、知り合いの編集者のかたたちとチャリティーイベント「図録放出会」を始めました。一般のかたや美術館、出版社、新聞社などに図録を持ち寄ってもらって販売し、収益はすべて寄付しています。もう3回開催しました。

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図録放出会 第3回目の様子

――どのような場所でやるのですか。

Tak:1回目は友人がやっている赤坂のお店、2回目は新宿にある家具屋さんの1フロア、3回目は信濃町の東京藝術学舎という大学でやりました。すべてボランティアで運営しているので、場所を提供してくださる人を探してお願いしています。

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図録放出会 第3回目の様子

――図録の値段は?

Tak:1冊500円か1000円にしています。最初は細かく値付けをしたのですけど、会計が大変だということがわかり2種類にしました。結構売れますよ。

――いまご自宅に残っている本は選抜されたものなのですね。

Tak:選抜メンバーですね。

――最後に、もっと展覧会巡りを楽しみたいと思っているかたに向けてアドバイスをいただけますか?

Tak:展覧会にそんなに行けないかたでも、いつかこの絵を見たい、この仏像を見たいと思い続けることって大事です。想像(イメージ)しないと創造(クリエーション)できないのと一緒で、イメージしていないと好きな作品と出会える可能性も減ってしまいます。海外の美術館から日本にやってくることもあるかもしれないですしね。ツアー旅行で訪れた街に見たいと思っている作品があったら、ツアーから抜け出して見に行ったっていいじゃないですか。見たいという思いが大事です。

――ありがとうございました。次回は番外編として、これまで3000以上の展覧会をご覧になっているTakさんに、印象に残った展覧会ベスト10、作品ベスト5、おすすめのミュージアム内のカフェなどを教えていただく予定です。ご期待ください。

(編集見習い・フジコ)