山下裕二先生書斎訪問(1) 書斎編

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Tak:『日本美術全集』の編集委員である山下裕二先生にお話を伺う為に先生の書斎(書庫)にお邪魔しております。早速ですが、こちらで執筆などのお仕事をなさるのですか。 

山下:ここではしません。ものを書くわけじゃなくて…

編集部フジコ(以下フジコ):本を読むかんじなのですか。

山下:そういうわけでもなく、まあ言ってみれば本が住んでいる。図書館だな、ここは。

Tak:先生の「本の家」。

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床から天井まで展覧会図録で埋め尽くされている。下にある紙袋に新着の本などが入る。

山下:そうですね。どうやったってこれだけの本、自宅には入らないもん(笑)

フジコ:では、何かの原稿を書くときは、ここから必要な本を抜き出して、ご自宅に持って行き、使い終えたらそれを袋に詰めて持って帰ってくるのですね。玄関に随分と本が入った紙袋が置いてありました。

山下:いや、あの袋は基本的には新着のものです。

フジコ:どうすれば、あれだけの本がたまるのですか?

山下:送ってくるわけですよ。本、および雑誌が届かない日がないからね。一日平均、3冊くらい。つまり、年間1000冊増えるわけです。 

Tak:それに展覧会図録が別途加わると。

山下:そう。展覧会図録がなんて言っても、一番多い。場所も取るし、送られてくるものも多いんだ。

Tak:でも、ご自宅にも本はありますよね。

山下:あります。

フジコ:大学の研究室にも。

山下:あります。自宅のほうもこの天井にまで届くような本棚が、1、2、3…10ぐらい。あと大学に10ぐらい。

フジコ:ご自身で書店で購入されることは?

山下:ま、『國華』なんかは買っているけど、ほとんどないですね。あと『MUSEUM(東京国立博物館研究誌)』かな。自分で買っているのは。『芸術新潮』も『別冊太陽』も『美術手帖』も全部送られてくるからね。

Tak:これだけ多いと、ざっと目を通す時間などもないのでは?

山下:うん。なかなか全部は見られないですが、いざというときに必要になってくるものがあるから捨てられないんだ。 

Tak:先生のご著書ってここには置かないのですか。

山下:あんまり置いてないですね。

Tak:先生、何冊か同じ本がありますが、ダブりもお捨てにならないのですか?

山下:う~ん。処分するのにもエネルギーがいるからね。それに中々本は捨てられないでしょ。

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『國華』創刊号を手にする山下先生

Tak:ちなみに、この書斎(書庫)だけじゃなくてもよいのですが、古い本だと何年くらいの本をお持ちですか。いわゆるヴィンテージ本とか。

山下:100年以上前、『國華』の創刊号があります。1、2、3号。

(山下先生、持ってくる)1889年(明治22)10月。「それ美術は国の精華なり」で始まる。これ、天心が書いたやつ。

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無著像が掲載されたページ

(一同見入る)

正直いって僕は岡倉天心のこと好きじゃないんだけどね。大学院の授業でこういうのを読ませたりしてます。明治の『國華』の論文ね。写真もいいですね。これ(興福寺の無著像)こんなにボロボロだったんだね。蜘蛛の巣がはってるよ。

フジコ:このへんはコロタイプ印刷(写真印刷法の一つ。ガラス板を原板に使用。)ですか。

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木版で印刷された『伴大納言絵巻』

山下:うん、コロタイプですね。

これ(『伴大納言絵詞巻物』)は、木版ですよ。

フジコ:浮世絵そのものですよね。

山下:小村雪岱(こむら・せったい/大正時代から昭和にかけて装幀、挿絵、舞台美術の世界で活躍した画家)はこの仕事をしてたんだからね。國華社で。

フジコ:描き版ってことですよね。

山下:うん。それにしても、この円山応挙(『鶏図』)もたいしたことない作品ですね。天心わかっていたのかな。

フジコ:これは、2007年の「笑い展」(森美術館)に出していた狩野秀頼『酔李白図』ですか。

山下:違います。「狩野正信筆 三笑図」として載せているけど、正信じゃないね。天心の『國華』って今思うと疑わしいものもけっこう載ってたりするんだよね。

Tak:2008年に東博で開催された「対決展」(創刊記念『國華』120周年・朝日新聞130周年 特別展「対決-巨匠たちの日本美術」)がこの関係の展覧会でしたよね。

山下:そうです。

そういえば、僕もデビュー論文『國華』でした。もう何書いたか忘れたけど(笑)

(第2号or3号をご覧になりながら)

あ、虫食ってる!この雪舟筆として載っている作品も全然だめですね。真っ赤な偽物だよ、これ。要するに、官僚ではあるけれど、岡倉天心にあまり鑑識眼がなかったってことがわかるね。

Tak:これが雪舟?

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『悲母観音』(『日本美術全集16 激動期の美術』より)

山下:とんでもないです。

フジコ:全体にわたって天心が監修しているのですか。

山下:ま、天心が一番中心になっていますね。

フジコ:あ、狩野芳崖の『悲母観音』。これ、当時の現代美術ですね。

山下:そうです。

Tak:そういった「新しい作品」も載せていたのですね。

ところで、難しいとは思いますが、お宝図書をこの書庫から5冊くらい選ぶとすると、これは入りますか。

山下:まあ、そうですね。

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横尾忠則さんデザインの『少年マガジン』1970年23号

山下:『少年マガジン』1970年23号、これはお宝本です。

Tak:またすごいのが出てきた。グラビアアイドルとかが出ているページに横尾忠則。

(横尾忠則さんのサイン入り。巻頭に横尾さん作品のカラーグラビア「カラー特別企画横尾忠則の世界」、「あしたのジョー」、「巨人の星」)

フジコ:このサインはいつ、いただいたのでしょうか。

山下:横尾さんと仕事をするようになってから、サインしてもらいました。 

Tak:でも、この本はずっとお持ちだったんですよね。

山下:いや、これは、フクヘンこと編集者の鈴木芳雄さんがプレゼントしてくれたものです。 

Tak:そうなんですか。粋なプレゼントですね。フクヘンさん。 

山下:1970年の『少年マガジン』全冊をプレゼントしてくれたんだ。

フジコ:少年時代に読んでいらっしゃったのですか?

山下:読んでましたが、うちの母親、異様な綺麗好きで、なんでも捨ててしまうんだよ。あと、つげ義春さんのサインの入った本もあるけど、それは自宅にあります。

フジコ:先生が修学旅行のときに夜行列車で読んだ「紅い花」ですか?

山下:そう。高校時代に読んだ本そのものに、サインをしてもらいました。

フジコ:先生が、つげ義春を好きになるきっかけの一冊ですよね、感涙ものですね。

Tak:もう、その3つがあれば十分ですね。『國華』と、『少年マガジン』と『紅い花』ね。

山下:あと、つげさんの『芸術新潮』(2014年1月)の特集が、僕がいままでで一番やりたかった仕事だから、あれは僕にとって忘れがたい仕事です。

フジコ:『日本美術全集19 拡張する戦後美術』(2015年8月発売)にも、つげさんは載りますよね。

山下:「ねじ式」の原画を載せますよ。

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書籍や雑誌が中心の部屋。こちらにも10本以上の本棚がある。

−−連続インタビュー第3回目で、その19巻のことを語っていただきますが、その前に、次回は本以外の驚きのコレクションをご紹介したいと思います。マンションの一室がまるごと山下先生の書斎(書庫)となっています。日本画、西洋画、雑誌、展覧会図録と丁寧に分類されています。本以外にも絵画やオブジェそれにカメラコレクションなどがあり、美術好きには天国のような部屋になっています。どうぞお楽しみに。 

(次回に続きます)