山下裕二先生書斎訪問(2) コレクション編

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『日本美術全集』の編集委員である山下裕二先生にお話を伺う為に先生の書斎(書庫)にお邪魔し、お話を伺って来ました。前回「書斎編」では貴重な本を紹介しました。今回の「コレクション編」では、書斎にある驚きのアート作品を見せてもらいます。

Tak:本棚や床にギャラリーの箱が無造作に置かれていますが、これはもしかしてアート作品が入っているのですか?

山下:いろいろありますけど、まずどれからにしましょうか。(おもむろに箱をあけ、掛け軸を取り出す【1】)

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【1】伊藤彦造の掛け軸を広げる

Tak:いきなり、すごいのが出てきた。先生、古美術や現代アートなども積極的に集められていますよね。

山下:(掛け軸を広げる)これは伊藤彦造の作品。この作品は『アートコレクター』という雑誌の「これが欲しい」っていう連載で紹介したものです。これの下絵が以前、弥生美術館で開催された「伊藤彦造展」に出ていましたね。

編集部フジコ(以下フジコ):描かれている幼児が西洋人っぽいですね。

山下:伊藤彦造って、終戦後、進駐軍と関係があって、これマッカーサーに見せたいって描いた絵なのです。資料が付属しているから作品にまつわる意外な面も分かります。

Tak:それでは、かなり気合を込めて描いたのでしょうか。

フジコ:普段は挿絵画家ですよね。

山下:素晴らしい作品で、いまのイラストレーターでここまで描ける人は見当たらないのではないかな。

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【2】『日本美術全集16 激動期の美術』より

そういえば、山種美術館で開催していた「花と鳥の万華鏡展」に僕の所蔵品が出ていました。山種に寄託しているんです。 

Tak:えっ!気づかなかったです。(ブロガー内覧会までやったのに…)

山下:渡辺省亭の牡丹と蝶の絵【2】。省亭の絵のなかでも最高のものだと思います。明治26年に描かれた素晴らしい大幅だけど、購入した時、たったの70万だった。驚きの安さだよね。僕は「1桁違うでしょっ!」というものしか買わないからね。この渡辺省亭の作品は僕のなかでは1000万以上してもおかしくないものです。

Tak:この2点を見られただけでも大満足ですが、もう少し見せて頂けますか。

山下:それなら山口英紀君の作品を【3】。

Tak:英紀君、キタ!彼すごいですよね。どこまでいってしまうのかっていう勢いを感じます。注目度高い割に妙に腰が低いんですよね。真面目な方で。

山下:(昔の年賀はがきの表面に水墨で機関車を描いた作品を取り出す)

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【3】山口英紀さんの作品

Tak:あぁ、これをお持ちなのですか!

山下:ふふ(笑)

フジコ:水墨画なんですよね。どう見ても信じられない。

Tak:彼は書の世界から来ているのですよね。

山下:そうだね。

このあいだ「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU(日テレ)」っていう番組に出したらすごい反響でした。

フジコ:ギャラリーはついてないのですか?

山下:いろんなところでやっているね。

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【4】火焔型土器の破片を手にする山下先生

ところでこんな作品もあります【4】(山下先生、箱をあける)

Tak:縄文時代のものですか?

山下:“国宝”のかけらです。新潟県十日町市博物館にある「火焔型土器」と同じものの一部でしょう。

フジコ:これは縄文人の指跡ですね。

山下:そうだね。いいでしょ。歴史のロマンを感じますね。

フジコ:触っている間にポロポロ落ちていくのが怖いですね。ところで、こうした土器って売っているものなのですか。

山下:そうですね。

Tak:以前、山下先生がアートフェア東京2012の会場内で「シャッフル展2」をやったときに、縄文土器が展示してありましたよね。

山下:そう、そこで4、5万で買ったんだ。

Tak:ところで、こうしたアート作品は、あまりご自宅に置かずにこちら(書斎)に置いていらっしゃるのですか。

山下:そうだね。自宅にも作品は置いてあるけど、こちらの方が多いかな。あと、トランクルームにもあります。

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【5】コケブリック

Tak:自宅と書斎(書庫)とは別にトランクルームがあるのですか。「山下先生コレクション展」って余裕でできてしまいますね。

山下:出来ちゃうね~。

Tak:作品ってギャラリーをめぐっていて、これはという作品があると購入されるのですか。

山下:そうですね。こんなかわいいのもあります。この「コケブリック」【5/BE@RBRICK(ベアブリック)というフィギュアのこけしバージョン】大好きなんだ。あと、もちろん「トン子ちゃん」【6/漫画『オッス!トン子ちゃん』(タナカ カツキ著)のキャラクターの立体像】もね。

フジコ:このトン子ちゃんはどうしてここにあるのですか?

山下:これはもらったわけですよ。2007年にタナカ カツキの展覧会(『タナカ カツキの太郎ビーム!』)を岡本太郎記念館で僕がキュレーションしたのですが、そのときに色違いで3体作りました。

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【6】トン子ちゃん

フジコ:ピンク色のトン子ちゃんもありますよね。

山下:そうですね。1体はカツキさんのところにあって、1体は岡本太郎記念館にあって、もう1体がここにあります。これ製作費、何百万円もかかっているんですよ。

Tak:そんなにするのですか。

山下:岡本太郎記念館の庭で、ライブペインティングしたもの。だからタイツの模様が太郎さん風になっているのです。

Tak:なるほど。けっこうここはコレクション部屋でもあるわけですね。続々と出てきますね。これは?

山下:(漫画家の)つげ義春さんが撮った写真です【7】。

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【7】つげ義春さんの撮った写真を手に

下北沢のギャラリーでつげさんの写真を何枚か売っていました。なんと2、3万円だったんですよ。

Tak:2、3万!

フジコ:どうやってその写真は世の中に出てきたんですか。

山下:つげさんが自分で焼いたものなんです。むかし撮ったネガからね。これは『芸術新潮』のつげ義春特集にも出ています。あとで僕、つげさんに「買ったんですよっ」て言ったら、「なんだ、あげたのに」って(笑) 

Tak:またまたすごいのが出てきた【8】。額が随分と新しいですね。

山下:(牧野邦夫の絵を取り出す)牧野が京都に引越ししたときのものですね。未亡人が、「先生、持っていてください」って渡してくれた作品。

Tak:すごい、眼光鋭いですね。それにしてもほんと次から次へと作品が出てきますね。

山下:他にも、美術館に寄託している作品も結構あります。大岩オスカールの絵なんて、家やこの書斎に入らないので。 

Tak:たしかに。

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【8】牧野邦夫の作品を手に

フジコ:最初に買ったものは何ですか。

山下:森村泰昌さんの版画だね。写楽になっているやつ。

フジコ:まだ有名になる前ですか。

山下:いや、有名だったけど。版画だから安かったです。

Tak:こう見ていくと、カメラのコレクションもたくさんあるようにお見受けしますが。

山下:赤瀬川(原平)さんに貸して、赤瀬川さんがカメライラストを描いたものもありますよ。でも、考えてみたら、赤瀬川さんの絵って持っていませんね。ハガキはありますが。

Tak:いま主に使ってらっしゃるカメラは?

山下:オリンパスのデジカメだね。

Tak:このあいだMOA美術館で偶然お会いしたときも首から下げていらっしゃった。

フジコ:プリントすることはあるのですか。

山下:あんまりないですね。

Tak:古いカメラを集めているというわけではなく、歴代のカメラを大事にコレクションしている感じですか。

山下:いやいや。一時期クラシックカメラに凝っていて、けっこう買っちゃったんですよ。

フジコ:ライカ同盟には先生は入っていらっしゃるのですか。

山下:準構成員みたいなものですね。

この他にも高田安規子・政子姉妹の切手に刺繍をほどこした作品や天明屋尚さん会田誠さん、それに秋山祐徳太子選挙ポスターまでと、縄文土器から現代アートまでありとあらゆる作品が出て来ます。まるでアートの「打ち出の小槌」のような山下先生の書斎。

エラー切手や骨董品も含めると、本当に「山下裕二コレクション展」が開催出来ます。途中からインタビューを忘れ、作品鑑賞会になってしまった感はありますが、それもこれも山下先生コレクションがあまりにも多岐に渡っているからこそ。

それにしても、集まるところには、集まってくるものですね~アート作品って。お金と同じでさびしがり屋なのかもしれません。

 今回見せて頂いたものは全て“良い作品”を観る力(眼力)を備えていらっしゃる山下先生ならではのコレクションでした。そして“良い作品”とは、単に世間に広く認められているものではなく、自分の「好み」によって峻別して良いのだという勇気も頂けたとても貴重な体験でした。

最後に、山下先生おススメの展覧会です。 

「画鬼・暁斎― KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」

場所:三菱一号館美術館(東京)

6月27日(土)〜 9月6日(日)