地域へ広がる現代美術

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 地方美術館にとって、地域に住む現代作家の方々と、如何に連携を取ってゆくか。ここには非常に難しい問題がある。数年前、私が東京・板橋区立美術館に在職中に、なんとかこの問題に新たな展開を求めたいと思い、区の美術団体所属作家、フリーの作家、評論家などに集まってもらい、3年間、区内作家展の在り方について検討を重ねたことがある。

 そこで提案されたのが『発信//板橋//2011』展である。コミッショナーをたて、板橋ゆかりの作家と他作家を交え、板橋らしいテーマを設定して作品を制作してもらう、というものだ。

 残念なことに、初日を迎えてまもなく、3.11の東日本大震災によって、美術館が計画停電地域に指定され、閉館を余儀なくされた。

 そのときに、3年後の開催を目標に次回展の準備委員会を発足させ、コミッショナーを作家自身にする提案をし、板橋在住の作家である丸山常生(まるやま・ときお)・芳子(よしこ)夫妻に依頼した。

 それから3年。思いは実り、『発信//板橋//2013 ギャップ・ダイナミクス』(2014年1月5日まで)が始まり、さっそく出掛けてみた。

 ギャップとは熟成した森の頂に出現する穴のことで、ギャップによって暗かった森の底に陽ざしが届き、新たな植物群が生え、平衡状態に戻る過程を「ギャップ・ダイナミクス」というらしい。展覧会の内容は、6人の作家が各々のギャップを再生してゆくというものである。

 まっ先に出迎えてくれた作品は、大矢(おおや)りかの「立ち尽くす木」。玄関前のケヤキの大木を取り囲むように作られた倒木や草・土などによる泥舟だ。この制作のため、何ヶ月も美術館に通い続けた大矢は、地域の人々と触れ合い友達となり、"住民"となった。展覧会初日には、制作中に知り合った地域住民が駆けつけたという。

 美術館の外壁の窓と2階ロビーにある金沢寿美(かなざわ・すみ)の「出窓のカーテン」は、阪神淡路大震災で焼失してしまった自宅とその家族の記憶を内包している。丸山芳子「サナギのとき」は、アゲハ蝶のサナギが森の中で育つ生命の息吹を、宇宙空間にまで広げてみせる。中津川浩章(なかつがわ・ひろあき)の線の集積によるドローイングは光や水・草などの生命の本質を紡ぎ出す。丸山常生「発生源としての場所」は丸山が生まれてきた時代と場所がフラッシュバック効果で視覚に訴えてくる。任田進一(とうだ・しんいち)「Vague noise」は、数年にわたって撮影してきた板橋の風景を被災した写真のように荒らし、日常の危うさを伝える。会場に来た区民のなかには、「この場所知っている」と素朴に喜ぶ人も多い。

 こうした現代美術は、今生きている人々にもっとも身近なもので、先入観なく見れば素直に喜べるものだ。3年前にも、近所のオバチャンが入場料を払って楽しそうに観覧していたことを思い出す。

 大矢の制作現場を見て興味を持った近隣の人、板橋風景の写真に喜んだ人――ここから現代美術は地域に広がってゆくのだ。無理に肩肘を張って理解しようと思わず、素直に見ることから始める現代美術は楽しい。

今回のおすすめ作品はコレ!


oyarikaup.jpg大矢りか「立ち尽くす木」2013年

大矢は1957年、東京生まれ。10代の一時期を板橋区で過ごす。東京造形大学彫刻専攻卒。日本大学芸術学部彫刻科修了。国内での発表の他、オーストリア、スウェーデン、韓国、オーストラリア、スコットランドなどでの個展や野外展で、自然素材を用いた作品を多数制作(板橋区立美術館HPより)。