秘密の場所

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 実は昨年12月にそこを訪れ、ほとんど人のいない空間で与謝蕪村(よさ・ぶそん)筆「峨嵋露頂図巻(がびろちょうずかん)」を独り占めして嘗(な)めるように見入ることができる至福の時間を持った。そこには他にも中国や日本の陶磁器、縄文や弥生の壺、ガンダーラの仏像、俵屋宗達(たわらや・そうたつ)の色紙や尾形光琳(おがた・こうりん)の団扇など名品が陳列されており、その質の高さに息を呑んだのである。

 こんなところが、まだ東京にひっそりあったのだ、という衝撃は、しばらく私の脳裏を刺激し続けた。そうこうするうちに年末ブログに紹介する機会を失ってしまった。何故なら、ここの開館日が毎月10日から25日まで(そのうち1日が休館)という変則的なものなので、ブログの入稿締切と開催日がうまく噛み合わなかったからだ。

 さて、こことは、東京・東中野にある東京黎明アートルームである。昨年10月にリニューアルオープンしたということで、その前身は2005年にTOREK Art Roomとして開室されたものだという。

 不勉強ながら、私は全く知らなかったのだが、リニューアルオープンの案内をもらって、そのうち行ってみようと思っていたところ、12月に蕪村が出るというので行ってみて驚いたのである。

 始めて宮内庁三の丸尚蔵館を訪れて、質の高い所蔵品が陳列されているのに比べ入館者がほとんどいなかった時に、これは人に教えず、秘密の場所として自分だけの胸に秘めておこう、と思ったことを想い出した。この場所もそうしようかと思ったが、新年になってやはり広く知らせるべきだと思い直し、1月10日の「あけおめ おめもよ おめでたい文様 吉祥文」展(25日まで)に足を運んだ。

 縄文土器や弥生の壺などは常設展示作品のようで、前回と同じ作品が陳列されていたが、何度見ても、弥生の壺の素晴らしい腰の張りには感動する。その美しい曲線がもたらす空間には、弥生時代の人々の大らかな精神が宿っているように見える。尾形乾山(おがた・けんざん)の皿や中国明代の陶器も見ごたえがある。

 今回の展示では狩野派随一の女流画家清原雪信(きよはら・ゆきのぶ)筆「孔子鳳凰麒麟図(こうしほうおうきりんず)」(三幅対)が面白かった。雪信作品の中でも格別の気品を備えた傑作だ。2階の展示室にある住吉具慶(すみよし・ぐけい)筆「百人一首画帖」もなかなかの名品だ。

 このアートルーム、ケースの作りと照明が良いため、作品がとても見やすいことも言い添えておくべきだ。さらに特筆したいのは、作品解説のキャプションである。簡にして要を得たレベルの高い解説が150字程の文字数で、しかも大きな文字で書かれている。老眼鏡が不用なキャプションだ。これは、私が東京・板橋区立美術館に勤務していた時代に提唱したものでそれがここで実践されていることは嬉しい限りだ。質の高いコレクションが、わかりやすく展示されているこの場所の今後に、大いに期待したい。入室料400円も魅力で、2月は閉室、3月10日から「応挙の花鳥図」展が始まる。

今回のおすすめ作品はコレ!


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「壺」弥生時代後期・1~3世紀(東京黎明アートルーム蔵)

俵屋宗達、与謝蕪村、雪村、名だたる絵師の作品を所蔵しているだけでも驚きですが、東京黎明アートルームには縄文土器に土偶に埴輪、そしてこの弥生の壺まで、考古のジャンルも充実しております。JR東中野駅より徒歩7分という好立地。運が良ければ安村氏のように作品を独り占めできるかもしれません。

「あけおめ おめもよ おめでたい文様 吉祥文」

会期:2016年1月25日(月)まで

会場:東京黎明アートルーム

ウェブサイト:http://www.museum-art.torek.jp/index.html